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ワーキングペアレンツとの会話で感じた3つのこと

 

仕事と子育ての両立は、ワーキングペアレンツにとって最大の悩み。働きやすい制度は勿論のこと、職場の環境や一緒に働く方達からの協力と理解が欠かせません。でも、ワーキングペアレンツの実態は、当事者以外にはなかなか分かりにくく、子育て経験の少ない上司や同僚とのコミュニケーションが難しい局面も多々あります。

 

この問題の改善に向けて、東京大学との連携プロジェクトでは、バーチャルリアリティ(VR)の世界の中で、子育て経験の無い上司や同僚の方々が仮想的に子育てを経験することで、自らのバイアスに気づき、ワーキングペアレンツへの理解を深める研修について検討を進めています。

 

今回、バーチャルリアリティ(VR)の世界の中で体験するシナリオと研修の内容を具体的に検討するにあたり、子育てと仕事の両立の悩みや働きやすい職場に向けたアイディアなどについて、ワーキングペアレンツの方々の生の声を聞かせて頂ける機会を頂きました。

 

総勢15名の子育てと仕事の両立真っ最中の方々と、総計12時間に渡る会話をさせていただき、本当に学びの多い貴重な体験となりました。今回ご協力いただいた方々は、子育てと仕事で忙しい中、少しでも働きやすい職場の実現に役に立つのなら、と時間を割いてくださり、心から感謝いたします。ワーキングマザーの方々との会話では、ワーキングマザーであった私自身が 「時代は変わっても悩みは一緒だなあ」と感じた悩みや想いも多くありましたが、テレワークという新しい働き方になった中での新たな悩みや、個々の方々のリアルな体験を伺うことができました。さらに、ワーキングファーザーの方々との会話では、「時代はここまで変わってきているんだ!」と目から鱗が落ちる体験をさせて頂いた気がします。

 

この貴重な会話を通じて、3つの重要なことを感じました。

 

1.「ワークライフ・バランス」 から 「ワークライフ・インテグレーション」 へ

日本では、「ワークライフ・バランス」という言葉を使っている企業が多くありますが、実際のところバランスなんて簡単にとれるものではありません。今回の会話で共通言語のように語られた言葉が2つあります。

 

一つ目は、「時間に追われる」です。

朝起きてから子どもを保育園に預けるまでの分刻みの対応から一日が始まり、時間に間に合うように仕事をこなして夕方に保育園に迎えに行き、夜子どもを寝かしつけるまで続く一瞬たりとも気が抜けない時間。夕方の子育てを 「第二ラウンド」 と表現された方が複数いらして、なるほどなぁ、名言だなぁ、と感心させられました。しかもこの第二ラウンドは、「大人が思うように時間は進まない」かつ「常に選択を迫られている」そんな時間なんです。でも、そんな第二ラウンドに向かおうとしている時間帯に仕事を頼まれることもあれば、問題が発生して対策会議が終わらないこともある。そのような中で仕事を切り上げて保育園に迎えに行くために一人会社を出ないといけない事もある。だから、会社の上司や同僚、チームメンバーに対しても、ゆっくりと向きあえない子どもや家族に対しても、どちらにも申し訳ない気分になってしまう。

二つ目の共通言語は、「罪悪感」でした。

 

ワークとライフ、仕事と子育てを個別の対応と位置付けて「バランス」を取ろうとしても、身体は一つしかありません。バランスが取れないことは、しょっちゅう起こります。バランスを取れないことで罪悪感を持ち、自分を責めてしまう。でもそれは、メンタルヘルス面でもマイナスでしかありませんよね。だから、バランスを取ろうなんて考えない方が良い、もともとバランスなんて取れないんだ、と割り切ることで気が楽になると思います。

 

今回の会話で特に「罪悪感」を殆どの方が感じている状況を改めて認識し、「ワークライフ・バランス」から「ワークライフ・インテグレーション」へのシフトの必要性を強く感じました。「ワークライフ・インテグレーション」とは、ワークライフ・バランスを発展させた考え方で、仕事生活と私生活を統合して好循環させることにより、生産性や生活の質、幸福感等の向上を目指す概念です(経済同友会, 2008)。 テレワークが急速に浸透しつつある現在、私たちの生活における仕事は、もはや「私生活から隔離された一定の連続した時間の塊」ではなくなりつつあります。ライフとワークを日々の生活の中で、そして人生の中でどのようにインテグレーションすることが自分にとって好ましいのか、一人ひとりが主体性を持ってインテグレートするマインドで人生をデザインしていけること、それを企業がサポートしていくことが、働き方が大きく変わっていくこれからの時代に必要なことなんだろうと思います。

 

今回会話をさせて頂いた方の中に、日本企業から外資系企業に転職された経験を持つ方がいらっしゃいました。その方は、「今勤めている外資系企業では、ワークライフ・インテグレーションの考え方が浸透しているのでとても働きやすい」「以前勤めていた日本企業では子育てと仕事の両立がやりにくく、生きづらかった」と言われたことがとても印象に残りました。

 

2.「共感力」 が気持ちを救う

ワーキングペアレンツが職場で抱える悩みとして多くの声があがったのは、下記の3つ。

 

♠ 子どもの急な病気やケガの時の対応:

突然仕事を休まないといけなくなったり、急ぎ保育園に迎えに行かないといけなくなったりする。特に自分の仕事を誰かに代わってもらう必要がある時に、それを上司や職場のメンバーに頼むことに申し訳なさを感じる。

♠ 子どもを保育園に迎えに行くために時短あるいは定時で会社を出る時:

職場のメンバーが忙しい中、自分だけが先に退社することに対して、申し訳ない気分になる。また、あらかじめ退社時間を共有しているのに、直前に仕事を頼まれたり、打ち合わせが終わらなかったりすることもある。そんな時に「帰ります」と言い出すのが辛い。

♠ 子どもが家に居る時のテレワーク:

子どもが家に居る時に仕事に集中するのは難しい。でも、その実態を上司や子育て経験のない人からは理解されない。家に居るんだから仕事できるでしょ、と思われてしまう。

 

そして、いずれのケースでも、上司や職場のメンバーにどのような声がけをされたか、どのような事を言われたかが、ワーキングペアレンツの気持ちやモチベーションに大きな影響を与えていることが今回の会話から大きくクローズアップされました。夜まで続く 「第二ラウンド」 に向かうために退社する際に、「毎日早く帰れていいね~」と言われることの悲しさ。逆に 「大変だけど、頑張ってね!」と声がけされたことがどれだけ励みになっているか。リアルな体験談を色々伺う中で、そこには上司や職場の人たちの 「共感力」 が大きく影響していることを強く実感しました。

 

「共感力」は、私たちが幸せな人生を送るためにも、仕事で成果を上げるためにも最も必要となる力の一つ。共感力をつけるために必要な力が2つあると私は思います。

 

一つ目は、「聴く力」

「聴く力」の重要性は、以前ブログでも 『人生の質を左右する 「聴く力」』

https://www.sowinsight.com/blog-210606/

として書かせて頂きました。今回の会話の中で、「職場で共感してくれる人はどんな人?」 という質問に対して、「人の話を心で聴ける人」 という声がありました。「聴く」という漢字に「心」が含まれているように、「心で聴く」 ことは聴くことの本質なのでしょう。

 

二つ目は、「想像力」

人は誰しも自分の経験の蓄積によって作られた脳内のバイアスを通して世の中を見て、聴いて、感じています。だから同じ経験をしても、同じ話を聞いても、誰一人、同じ経験はしていないし、同じ話にも聞こえていない。皆、自分の経験とリンクさせた形で世の中を受け止めている。そんな中で他の人に共感できるようになるためには、自らの経験の先に他者とのリンクを作るための力 「想像力」 が欠かせない。この想像力をいかに養うかは、共感力に繋がり、自分の人生を豊かにすることにもつながります。

 

ただ、人は自分の体験と全くリンクが持てないことについてはイメージするのが難しく、想像力も働かせ難いですよね。だからこそ、東京大学との連携プロジェクトで取り組んでいる、「バーチャルリアリティ(VR)の世界の中で、子育て経験の無い上司や同僚の方々に仮想的に子育てを経験してもらうこと」 には大きな意味があるのではないかと期待しています。仮想的な経験を通じて、子育ての一端をイメージできることで、想像力と共感力につながるようサポートしていきたいと考えています。

 

3.「子育てと仕事の両立」「働きやすさ」 に対する考え方は、三者三様

「子育てと仕事の両立」 や 「働きやすさ」 にたいする考え方は、人それぞれ。今回の会話でも、

「子育て中なので仕事できる時間は限定されるけれど、仕事に対する責任感は変わらない。キャリアにおけるチャンスを制限して欲しくない」 という声もあれば、

「子どもが小さい間は、子どもとの時間を大切にしたい。その間は、仕事の負荷に対する配慮が欲しい」

という声もあり、正に三者三様だなぁ、と改めて感じました。子育てをしながら働くワーキングペアレンツが増える中で、こういった要望や考え方もより多様化していくことでしょう。

 

ですから、「本人がどのような考え方を持っているのか」 を上司が理解し、その考え方を踏まえて最大のパフォーマンスを引き出す対応をしていくことが不可欠。そのためには、その考え方を理解するためのコミュニケーションが益々重要になっていくと強く感じました。

 

 

kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)

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