情報があふれるデジタル時代に「自然を感じる」ことの意味
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わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。
美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてももっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます。
消化する能力がまだそなわっていない子どもに、事実をうのみにさせるよりも、むしろ子どもが知りたがるような道を切りひらいてやることのほうがどんなにたいせつであるかわかりません。
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レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳『The Sense of Wonder センス・オブ・ワンダー』
毎年のように発生する豪雨と河川の氾濫、年々顕著になる温暖化の影響。毎日のように耳にするSDGs。企業にとっては、ESG経営が持続可能な企業価値向上に向けた最重要課題であり、この流れはますます加速していくでしょう。
このような時代だからこそ、私達は、これまで以上に自然を感じること、自然の美しさに感動し、自然の豊かさに心を満たすことが必要なのだと思います。一人ひとりが自然に対する感性を研ぎ澄ますことが、今私たちが置かれている危機感を肌で感じ、心で捉える、そして自然から生きものに共通する深い智恵を感じとる最も重要な体験なのだから。
私は、2015年に、生まれ育った東京から三浦半島の西海岸に移住しました。以前、家族で過ごした思い出が一杯詰まったカリフォルニアの西海岸にとても良く似た場所だということが三浦半島の西海岸を選んだ理由でした。特に、海に夕日が沈み反対側に山が迫っているところが、とても良く似ています。
移住のきっかけはそのような理由でしたが、住み始めて、三浦半島の豊かな自然に気づき、魅了され始めました。自然の植物の豊富さ、日々変わる海の色と表情、春には山桜で白く色づく山々、古くは1000年以上も前にできたという地層、鳥のさえずり、虫の声、豊かな魚介類…。情報が溢れかえり、1日の多くの時間をIT機器やバーチャル空間で過ごすことが普通になっていた私の生活の中で、こういった自然に触れることで、自然がどれだけ人の心を癒やし、豊かな気持ちを呼び起こしてくれるのか、その大切さに改めて気づかされたのです。そして、レイチェル・カーソンの ”The Sense of Wonder” の大切さを深く感じました。不思議に思うかもしれませんが、三浦半島の豊かな自然は、私にとって仕事の質をも向上させてくれました。
自然の緑が人に与える影響については、脳科学者の西剛士氏が著書の中でとても分かりやすく説明しておられます。
<生活の中に緑があるか、ないかは、私たちの思考に大きな影響を与えます。
例えば、病室。
病室から緑が見えるか、見えないかで治療率が変わるそうです。緑が見える病室の患者さんは、早く回復するといわれています。
緑が水を連想させることで心が落ち着き、セトロニンが分泌されて脳の状態がよくなり、それによって免疫力が上がるのではないかと考えられています。
例えば、オフィス。
オフィスの中に観葉植物などの緑を置くと、男性は創造性が15%上がり、女性は問題解決に対する柔軟性が高まると言われます。
ちなみに子どもの遊びに於いても、コンクリートばかりの場所で遊ぶのと、緑のある場所で遊ぶのとでは、違ってきます。緑があると創造性が豊かになるので、コンクリートばかりの場所より、遊び方のレパートリーが増えるのです。>
西剛士著『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』
私は、週末になると漁港の前に並ぶ漁師の魚屋に朝どれの魚を仕入れに行き、その後は、畑を見ながら三浦海岸の近くにある野菜の直売所に採れたての野菜を買いに行きます。こういった生活を6年の間毎週続けていると、温暖化や気候変動による影響を食材でも感じるようになります。潮の流れの影響でイワシの時期が大きくずれたり、雨の影響で毎年楽しみにしている春のグリンピースがほんの少ししか採れなかったり。私にとって、こういった肌身で感じる実体験が、SDGsやESG経営を自分事として考える大切なリマインダーになっています。
kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)