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自然を感じることで培われる 「美意識」

皆さんは、美意識について考えることがありますか?

 

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子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。

 もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けてほしいとたのむでしょう。

 この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。

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レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳『The Sense of Wonder センス・オブ・ワンダー』

 

自然に触れ自然を感じることで培われる意識の一つが、「美意識」だと私は思います。自然の美しさや神秘さに触れ続けることで、美しいもの、畏敬すべきもの、そして、人として正しくあることなどに対する想いや直観力が、私たちの意識だけでなく無意識の中で養われ根付く気がします。

 

美意識の大切さについては、山口周氏が著書 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の中で経営における「アート」と「サイエンス」の観点で語られています。正解の無いこの時代に企業の経営者やリーダー、そして多くの人たちが物事を判断するための拠りどころになる感性の一つが美意識だと、私も自らの経験を通して感じています。豊富な機能を持ち、高性能で高品質な製品を数多く生み出してきた日本の企業の多くが、変革・イノベーションの創出に苦労しています。便利なものが溢れ、情報も溢れ、そこそこ現状に満足してしまうこの時代に、人々の心を打つ商品やサービスを提供し、わくわくする気持ちを引き起こすためには何が必要なのでしょうか?合理性や論理的な考え方は、勿論今後も必要でしょう。でも、それだけでは心を揺さぶるものやこと・サービスを生み出すことが難しい時代になっているのだと思います。

 

このような時代だからこそ、自然に端を発した美意識の必要性が高まっているのではないでしょうか?人の心を魅了する製品の根底には感性的な美しさがあり、そのような製品を創り出すためには創り手に美意識が必要です。携帯電話やスマートフォンの開発に携わっていた10年以上の間に、私は、人の心を惹きつける製品と人の意識・無意識との関係に何度も考えさせられました。

 

例えば、カメラの色づくり。撮影した被写体をどのような色で映し出すか、色づくりはカメラの性能に対する人びとの印象や評価に大きな影響を与えます。その色づくりで大切にすべきことの一つが、空の青、草木の緑、人の肌色などの「記憶色」なのです。カメラで写した写真を見た時に人が美しいと感じるのは、眼の網膜に写っていた実際の色ではありません。空の青さや草木の緑など、人が脳の中にイメージとして記憶している色に近いことで人は撮影された写真を美しいと感じるのです。人が美しいと感じる色を創り出すためには、作り手の美意識が大きな影響を与えます。携帯カメラ開発に携わり記憶色に意識を向けるようになって、私は毎日、空の青色や草木の緑色が気になるようになり、日々の色の変化やなんとも表現し難い程の自然の色の柔らかさや美しさを意識するようになりました。当時のスマートフォンのデジタルカメラでは人が感じるその柔らかな美しい色を完全に映し出すことは難しかったのですが、創り手の美意識が、「ああ、あの時感じた美しかったこの色!」という感動や満足感を生み出す源泉になることを身をもって感じました。

 

企業におけるビジョンやパーパス。共感を呼び起こすビジョンやパーパスにも美意識を感じます。そして、AIを社会実装していく上で必要となるAI倫理やAIガバナンス。AIと人が協調していく時代において、「AIが導き出した答えを人がどのように判断し、どのように使うのか」それは、これからの社会において避けてはとおれない重要な仕組み作りとも言えるでしょう。その仕組みをどのように作っていくかで、社会のあり方が大きく影響を受けます。DX時代は、AIを開発・利活用してサービスを提供する企業側のみならずサービスを使うユーザ側も、公平性や透明性に対する感度を高め、アカウンタビリティに対する問題意識を持つことが必要です。その根底に必要なものも美意識だと私は思っています。

 

ところで、美意識を育てる手法について、京都の西陣織の織屋「細尾」の細尾真孝社長が著書『日本の美意識で世界初に挑む』の中で説明しておられます。私は、細尾氏の説明の中で特に、「美の型を知る」および「美を体験する」という考えに共感しています。

 

私は、十代の終わりから今に至るまで生け花を続けています。習い始めたのは、草月流ですが、今ではすっかり自己流になりました。私は、草月流の、きゅうくつな型にはめ過ぎず、大切な守るべきルールや考え方をしっかりと身につけさせる手法が性に合っていました。生け花の型を学ぶことで、植物の美しさを最大限に引き出す視点や考え方、個々の花材を活かして新たな空間を創りだす創造性などの美意識を培う基礎が身についたと思っています。そして、生け花は、経営に似ていると私は感じています。一つ一つの花材の美しさを最大限に引き出し、全体で最高の一つの作品に仕上げる。自分の感性と直感を信じて枝を切る。生け花を嗜む経営者が意外と多いのも、美意識を養うことと関係があるのではないでしょうか。

kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)

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