教育現場のジェンダー・バイアスがもたらす『隠れたカリキュラム』
先日、東京の高等専門学校で教職員の皆さまに対して、DE&I研修を実施させていただきました。
研修の依頼は日本経済新聞社から頂いたのですが、発端は、高専GCON(GIRLS SDGs×Technology Contest)です。
高専GCONは、独立行政法人国立高等専門学校機構が主催しているコンテストで、日本経済新聞社が共催しています。これは、女子高専生を中心としたチームが、SDGsの視点で日頃の学習や研究の成果を基に社会課題解決の技術開発を提案するコンテストで、2022年から開催が始まっています。この取り組みは、女子高専生に対して未来の研究者・技術者としてさらなる成長を促すことや、コンテストの発信を通じて日本の女性技術者・研究者を増やすことを目的としていて、現時点で18社を超える様々な業種の企業が協賛となり運営されています。
日本経済新聞社でこの運営に関わられている方のお話では、こういったコンテストを進める中で、日本の女性技術者・研究者を増やしていくためには、日本の文化や風土を始めとした構造的な課題に対応していくことが必要だという認識を強く持たれたとのことです。今回の高専の教職員の方々へのDE&I研修は、その施策の一環として計画され、私が講師を務めさせていただきました。
私自身はこれまで企業向けにDE&I研修を行うことが殆どでしたが、今回の機会を通じて、学校教育をつかさどる教職員の方々のDE&Iに対する認識を高めることの重要性に気づかされました。研修では、DE&I推進の鍵となる公平性とアンコンシャス・バイアスを中心に、ジェンダー・ダイバーシティにフォーカスした研修を進めさせていただきました。特に、アンコンシャス・バイアスは幼い時からの教育や経験に大きな影響を受けますので、教職員の方々がバイアスに関する認識を持ち日々の言動に注意を向けることが、教育現場におけるDE&I推進の要となることは疑う余地もありません。
学校教育に絡むジェンダー・バイアスは、少なくないと言われています。皆さんは、教育現場におけるバイアスが、『隠れたカリキュラム』と呼ばれることをご存じですか?隠れたカリキュラムには、3つの観点があると言われています。
一つ目は、教科書です。日本を含めた多くの国で、ジェンダー平等の観点で教科書に対する調査が実施され、教科書の登場人物の役割や量、挿絵での人物の描かれ方に対する是正が行われてきました。でも、例えば、白衣を着た研究者には男性が描かれていることが多いなどまだジェンダーに対する思い込みを助長させる可能性も無いとはいえないようです。
二つ目は、教員組織の構成。理数系教科の教員には男性が多いとか、職位が上がると女性の割合が下がるなどのジェンダーにおける不均衡を通して、生徒たちが管理職や理数系は男性の領域であると無意識に学習してしまう可能性が指摘されています。因みに、私が通っていた中学高校では、校長先生を始めとした管理職や理数系教科の教員を含めて殆どの教職員が女性でした。その環境が幸いしてか、私自身は理系コースを選択することも、大学で数学を専攻することにも全く迷いを持たなかったよう思います。
三つ目は、教師と生徒のコミュニケーションです。海外の学校現場の研究で、教師は女子生徒より男子生徒とのコミュニケーションに時間を費やすことが多いことが判明し、比率が1:2であったことから3分の2法則として知られています。数学のできる女子生徒に「女子なのに数学ができてすごいね」と誉めることが本人の意欲を下げる可能性があるというのは好意的性差別発言の代表例ですが、教師の女性に対する思いやりが保護バイアスにつながることもあります。
なお、教育に関しては、家庭における親と生徒のコミュニケーションもジェンダー・バイアスに影響されている可能性もあります。特に地方では、女子は理系に進まない方が良いという親も多いと聞きますし、実際に親のマインドを変えたいという相談を受けたこともあります。
今回の研修が、先生方が日々の行動の中でバイアスについて意識していただくきっかけになれば、とても嬉しく思います。
kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)