AIは社員をWell-beingにしうるのか
先日、日本経済新聞社が主催した第5回 Well-beingシンポジウムのパネルディスカッションに登壇させていただきました。パネル登壇者は、パーソルホールディングスの和田社長、シナモンAIの加治会長と中条の3名で、ファシリテーターがパーソル総合研究所の井上上席主任研究員。こういった機会をいただくたびに新たな出会いと刺激が生まれるので、とても有難く感じています。
パネルディスカッションのタイトルは、「AI時代の企業経営と人財価値」。テーマは今回のブログのタイトルでもある「AIは社員をWell-beingにしうるのか」でした。今年は生成AI元年と言われていますが、いよいよ人とAIが協調して生きる時代が本格化してきていますよね。まさに、タイムリーなテーマだったと思います。
皆さんは、「AIは社員をWell-beingにしうるのか」と聞かれたら、Yesと答えるでしょうか?それともNoでしょうか?
AIが企業に与える影響についてはこれまでにも様々な予測がなされてきましたが、大規模言語モデル(LLM)をベースとした生成AIが企業経営に与えるインパクトは、かつてなく広範囲に及びつつあるように感じます。
既に様々な機関から生成AIが社会や企業に与える影響に関するレポートが公表されていますが、その一つが、今年(2023年)の3月に発表された米国の投資銀行であるゴールドマンサックスのレポート。
このレポートによると、世界全体で最大で3億人もの雇用が生成系AIの影響を受ける可能性があると予測されています。ただし、殆どの業界と職業では、仕事自体がAIにとって代わられるというのではなく補完される、具体的には、米国の雇用のうちAIに取って代わられるのは7%で、AIに補完される部分が63%、残りの30%は影響を受けないだろうと予想しています。このレポートを踏まえても、人とAIの協調が進む可能性が高いということだと思います。
パネルディスカッションでもお話させていただいたのですが、私は、「AIは社員をWell-beingにしうるのか」という問いに対して、Yes派です。そして、こういった中で、社員のWell-beingを高めるために、企業が取り組むべきだと私が考えていることが3つあります。
一つ目は、人とAIの役割分担を戦略的に考えることです。
仕事の全体を俯瞰して、業務を因数分解する。そして、人がやるべきところとAIを活用するところを明確化すること。
二つ目は、人の能力を引き出すために、人の脳や心理の理解を促すことです。
これからは、人とAIが協調して生きる時代です。でも人は、毎日の生活の中で9割以上を無意識に左右されているのです。ですから、人がAIと本当に協調していくためには、自分の脳や心理を理解して行動することがこれまで以上に必要になっていくと思います。
そして、三つ目は、主体性、創造性、情熱を引き出す人材育成をすることです。
私は、経営思想家のゲイリー・ハメル氏が『経営は何をすべきか』という書籍の中で示した能力のピラミッドという考え方を大切にしています。能力のピラミッドとは仕事上の能力にまつわるもので、最底辺のレベル1から頂点のレベル6までの資質が示されています。具体的には、レベル1:従順、レベル2:勤勉、レベル3:専門性、レベル4:主体性、レベル5:創造性、レベル6:情熱、です。
ハメル氏は、企業が繁栄するかどうかは、あらゆる階層の社員の主体性、想像力、情熱を引き出せるか、つまりピラミッドの上の三つにかかっていると言われています。一方で、これまでの日本の企業における人材育成は、ピラミッドの下の部分、会社の方針に従順に従い、真面目に働き、専門的なスキルを磨いていく。そういう人材を重要視して育てる傾向が強かったのではないかという気がします。上の三つは、これまで「個性」のような位置づけとされてきて、多くの企業では企業としての取り組みがなされていないことが多いのです。これからの時代は、社員の主体性、創造性、情熱を引き出していくことを重視すべきだと思っています。
私は富士通時代、「人を幸せにするものをつくる」を仕事における自分のパーパスにしていました。AI事業に携わっていた時も同様です。AIはリスクにも機会にもなります。ですから、私たちは、Well-beingを高めるという意志を持ってAIに向き合うことが何よりも大切なのだと思います。
kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)