書籍 「しなやかな心とキャリアの育み方」 に込めた3つの想い
今年の1月6日に、「しなやかな心とキャリアの育み方」を上梓し、それ以来、書籍の内容をお話させていただく機会が増えています。本日は、その際にお伝えしている、書籍に込めた3つの想いについて、お話したいと思います。
書籍のテーマは、「しなやかに生きる」 です。私は、正解の無い不確実なこれからの時代に、私たち一人ひとりが自分らしく生きるために根底に必要なものが、「しなやかな心」だと思っています。それで、3つの想いを込めて考えを述べさせていただきました。
1つ目は、神経心理学にもとづく考え方です。
私が神経心理学の大切さに気づいたのは、富士通でAI事業に関わったことがきっかけなのです。ご存じのように、AIは人の神経細胞のしくみを活用していますよね。当時から富士通では、「これからは、人とAIが協調して生きる時代」 というメッセージをだしていました。でも、AIの進歩を目の当たりにする中で、私は大きな疑問を持ったのです。
「これからは、人とAIが協調して生きる時代」というけれど、人はAIと本当の意味で協調していけるほど自分の脳や心理を理解して行動しているのだろうか、と。
危機感を感じて、米国で「脳の取り扱い説明書」と言われているNLPという神経心理学を学び始めました。
先日のWBCは、世界中を沸かせましたよね。一番注目された大谷選手が決勝戦に向けた声出しで口にした「憧れるのはやめましょう」という言葉や、何度も「楽しむ」と言うのを聞いて、私は、この人は自分の脳と心理の取り扱い方を良くわかっているんだな、と強く感じました。どの領域でも言えると思いますが、最終的に勝負を決めるのは、能力ではなくて脳や心理の使い方だからです。
例えば、この楽しむ。人間の本能は生存確率を高めるために、安心・安全を求めます。脳も同様です。日本人は、とかく、辛くても頑張ることが美徳のように感じてしまいがちですが、物事を辛いと思いながら頑張るのは、実は非効率なやり方なのです。脳の特質を意図的に活かして、同じ出来事でも、わくわくを感じられるように脳を快に結びつけることが、脳を高いレベルで働かせるコツなのです。
2つ目は、ワーク・ライフ・インテグレーションです。
これは、私自身の仕事と子育ての経験、そして、シリコンバレーでいきいきと仕事をする人たちを観察してたどりついた想いなのです。充実したライフから生みだされるアイディアや考え方が仕事を含む人生の質を向上し、生産性や創造性を高める、それが、ワーク・ライフ・インテグレーションの価値だと思います。
創造とは結びつけることだと言われます。どんなビジネスでも、最後は一人ひとりのライフに結びついていますよね。ライフとワークを結び付けて現状に興味と疑問を抱くことが、仕事にも人生にも新たな創造を生むのだと私は思います。
私はシリコンバレーで出会って今でも家族ぐるみでお付き合いをさせて頂いているアメリカ人のご夫婦がいるのですが、奥様はNPOを立ち上げて色々な活動をされていて、ご主人は、米国の大手企業のCEOをしていて、昨年はCNN Business のCEO of the Yearにも選出されるなど、お二人とも以前からとてもクリエイティブな仕事をしているのです。一方で、例えば、子どもたちが小さい時は、ご主人も子供たちの野球の試合のために早く帰ってくるなど、家族との生活をとても大切にしていました。そのような、生活を楽しみながら創造的な仕事をする姿を近くで見ていたことも、私がワーク・ライフ・インテグレーションの力に気づくきっかけになったのです。
3つ目は、人生にSense of Wonderを です。
Sense of Wonderは、神秘さや不思議さに目をみはる感性のことで、私が起業した会社「株式会社SoW Insight」の社名の由来です。同時に、環境問題に大きな貢献をした米国の生物学者 レイチェル・カーソンさんがこの世に残した最後の著書のタイトルでもあります。
私は、この感性は、人が一生持ち続ける必要のあるものの一つだと信じています。なぜなら、Sense of Wonderから得られる自然を感じる感性、美意識、好奇心は、デジタル化が進むこれからの時代に、人が人らしく豊かに生きる源になると思うからです。
皆さんも感じていらっしゃるように、ChatGPTに代表される生成AIは、社会に衝撃的な変化を引き起こし始めています。数年のうちに、仕事のやり方や人の役割が大きく変化するでしょう。私もChatGPTを活用し始めて、既に、仕事に欠かせない貴重な相棒になっています。競争力を高めていくために、組織や企業は生成AIを使いこなしていく力が不可欠になると私は感じています。
だからこそ、私は、これから人に必要とされていくことが二つあると考えています。
一つは、AIが導き出す情報の信頼性を判断できる眼です。
AIが導き出す一見理路整然とした情報が本当に正しいのか、バイアスが含まれていないのか、倫理的な問題を秘めていないのか、などを自分で判断できる眼を養うこと。
二つ目は、既存情報の集大成的な考え方に捉われない創造性です。
AIは膨大なデータをもとに、ある意味、既存の情報の集大成的な考えを提示するので、それに捉われない想像性と創造性が、私たちには益々重要になっていくでしょう。
私は、それらの拠り所になるのは、他でもない、自分ならではの感性と美意識と好奇心だと思っています。
こういった想いから、本の中では、自分らしくしなやかに生きるための考え方や実践方法を私なりに示させていただきました。
『しなやかな心とキャリアの育み方』
(クロスメディア・パブリッシング、2023年1月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4295407828/
kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)