1. HOME
  2. ブログ
  3. 人生
  4. ジェンダー・バイアス:気になる6つのシチュエーション

BLOG

ブログ

人生

ジェンダー・バイアス:気になる6つのシチュエーション

 

東京大学との連携プロジェクトで、バーチャルリアリティ(VR)技術を活用してジェンダー・バイアスに気づき、改善に向けた行動変容を起こしていくための研修について検討を進めています。この取り組みの一環で、私自身の人生を振り返って、ジェンダー・バイアスについて考えてみました。

 

1. 子育てにおける男の子と女の子への接し方

日本の子育てにおいて、子供の学校教育に関して男女で差別することは、あまり無いと思います。一方で、接し方については、無意識にジェンダー・バイアスを持ってしまっていることが多いのではないでしょうか?

例えば、我が家でも振り返ってみると、息子にはLEGOを多く買い与え、娘にはぬいぐるみを沢山与えていました。子供からのリクエストというより、恐らく、親の無意識の行動が始まりだった気がします。子供達が成人した今でも、親心として、長男には、独り立ちできる力を、長女には、経済力を持ちつつも良き伴侶と出会う機会を一番に願っているところは、否めません…

 

こういったジェンダーによる接し方や期待値の違いを全て否定する必要は無いと思うのですが、本人の可能性を制限してしまったり、本人に無意識なバイアスを植え付けることに繋がらないよう、親が意識することが必要ですね。

 

2.  家事や育児に対する意識・役割

家事や育児に対する意識は、勿論個人差はありますが、世代によって大きな差異があると思います。私が育った一般的な昭和の家庭では、夫は仕事一筋、家事や育児は妻の仕事というのが普通でした。

会社を経営していた父は、仕事一筋でした。帰宅も遅く、平日に父と一緒に夕飯を食べた記憶は殆どありません。父だけ遅い時間に夕飯を食べていましたが、母は、必ず給仕をし、子供達より1品多くおかずを出していた記憶があります。家事・育児は、全て母の仕事でした。また、私の親は教育熱心だった一方で、女の子には家事手伝いをするよう強く求めました。兄と弟が同様のことを求められたことは無かったように記憶しています。

世代が若くなるにつれて、男性が家事・育児を自分事として捉える割合は、増えていると感じます。でも、仕事とのバランスを含めて考えると、まだ、妻の負担の方が圧倒的に大きいのではないでしょうか?

私の夫は、同世代の男性と比べて共働きへの理解度が高く、家事や子育てに関しても協力的でした。でも、子供が幼い頃は夫自身も多忙で残業も多く、平日の家事・子育ては私の役目。子供達が病気になっても、会社を休むのは妻の私。基本的に、家事や育児は私の役割で、夫はあくまで協力する立場だったように思います。

こういった意識や役割は、自分が育った環境などにより、無意識に刷り込まれてしまっているように思います。私は、初めての子供の育児休職中に、復帰を断念しそうになったことがあります。子供が可愛くてたまらなくなってしまった事に加えて、復帰しても、育児や家事や仕事を100%こなせる自信が持てなかったことが原因でした。この時も、育児や家事は、妻の役割だというアンコンシャスバイアスを自分で持っていたのだと思います。

仕事に復帰してからは、『専業主婦のお母さん達のように、もっと長い時間一緒にいてあげたり、世話を焼いてあげることが出来なくて、かわいそうだったなぁ、申し訳ないなぁ』という意識を子供達に対してずっと持ち続けていました。これも、根底にバイアスがあるのでしょう。

 

女性の管理職比率を増やしていくためには、仕事と家事と育児のバランスが取れる環境を整えていくことが、不可欠。そのためには、『家事や育児は、妻の役目。夫は手伝う人』という意識をから、『家事や育児は夫婦で行うこと』へ、名実ともに変わっていく必要があります。自分が育った環境によって作られているジェンダー・バイアスがある場合は、まずはそれに気づき、そして対応していくことが重要だと思います。勿論、男性、女性ともに。

 

3. 仕事のアサインメント・経験の積ませ方

男女格差が生じる4つの要因として、シカゴ大学の山口一男教授は、採用・経験・評価・昇進を挙げています。 「経験」の差は、評価、昇進に影響を与えることから、経験が積めないことは、負のスパイラルを生みだしやすい。21世紀職業財団の2020年調査では、総合職女性の6割近くが「重要な仕事は男性が担当することが多い」と思っているようです。

東大プロジェクトで行ったヒアリングでも、仕事のアサインメントに慣例的に男女で違いがある例や、女性への配慮の表われとして 「大変な現場には男性をアサインする」 という実例が挙げられました。

私自身は、直接そのような意識を持ったことはありませんでしたが、「重要な仕事は男性でないと無理だ」「女性に修羅場を経験させるのは可哀そうだ」 という無意識が働いて、ジェンダー・バイアスに依存した 「経験に差が生じる職場」 があることは想像に難くないと思います。

 

女性のキャリア形成、および、女性の管理職を増やしていくためには、経験の積ませ方は非常に重要。“思いやり” も含め、無意識のジェンダー・バイアスがネガティブに影響を及ぼさないよう、上司へも女性本人へも気づきを持ってもらうことがとても大切ですね。

 

4. 意思決定の場におけるクリティカル・マス未満の状況

変化を起こすために必要な最低限の量であるクリティカル・マスは、30%と言われます。だからこそ、指導的地位における女性の割合を30%以上にするという目標が国連で合意されています。でも、残念ながら、日本企業における重要会議や意思決定の場での女性の比率は、30%に比べて極めて低いのが実態です。

私自身も、ポジションが上がるにつれて重要な会議における女性比率が急激に減少していった経験を持っていますし、そもそも、研究・技術開発の領域では、恒常的に女性比率は高くありませんでした。

そのような環境では、勿論メンバー構成や会議の雰囲気に依存しますが、女性は発言しにくいです。また、女性の発言が重要視されにくい状況が生じることもあります。女性比率を増やす努力とともに、クリティカルマスを越えるまでの施策も有効なのではないかと考えます。例えば、マイノリティーである女性の意見の影響度を擬似的な方法で増幅させることができれば、異なる視点が増加されるので、もしそこに何らかのバイアスが潜んでいた場合でも、気づくきっかけになるのではないでしょうか?

 

従来のやり方の延長線上ではないビジネス変革が求められている今だからこそ、女性を含む多様な視点に期待が寄せられ、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が加速しているわけですよね。本丸の加速とともに、時間を補う施策として、女性の声や視点を少し増幅してみることで効果が得られるとしたら、試してみる価値があるのではないでしょうか?

 

5. ワークライフ・ミックス(働き方の変化)

COVID-19の影響で、国内でも大企業を中心にテレワークが加速し、そのような企業での働き方は、ワークライフ・バランスからワークライフ・ミックスに移行しつつあります。目指すべきワークライフ・ミックスは、単に従来の就業時間にあたる時間帯を家で仕事することではないですよね。例えば、一日の中でその人の状況に応じて、仕事と育児や家事を行う時間をミックスさせ、拘束時間に囚われずに柔軟に仕事を行って成果を出す働き方が、めざす姿だと思います。

働き方が変化してきているにも関わらず、従来の仕事の仕方の延長で組織メンバーと仕事をしていては、組織全体のパフォーマンスを引き出すことはおろか、軋轢を生みかねません。長時間働くことが仕事熱心の証だ、とか、常に家事・育児より仕事を優先すべきだ、などのバイアスを持っていないか自己点検することが必要なタイミングなのではないでしょうか? ワークライフ・ミックスは、仕事と家事・育児の両立を促進する手段の一つとして期待されることから、その価値を組織全体で認識・理解することの意味はとても大きいと思います。

 

東大プロジェクトで行ったヒアリングの中で、家事・育児をこなしながらテレワークをしているチームメンバーに対して、家事・育児で忙しい夕方の時間帯にも関わらず、他のメンバーが従来と変わらず打ち合わせを入れるケースが増えていて、問題になっているという声が少なからずありました。ワーキングペアレンツの実態は、当事者以外にはなかなか分かりにくく、子育て経験の少ない上司や同僚とのコミュニケーションが難しい局面も多々あります。東大プロジェクトでは、この問題の改善に向けて、バーチャルリアリティ(VR)の世界の中で、子育て経験の無い上司や同僚の方々が仮想的に子育てを経験することで、自らのバイアスに気づき、ワーキングペアレンツへの理解を深める研修について検討を進めています。

 

6. 女性のリーダー像

『リーダーは、どちらかというと男性のほうが向いている』 という思い込みを持っている人は少なくないと思います。また、特に日本企業の上層部のリーダー像として、従来型の男性像のイメージを持っている人も多いのが実態です。女性の上層部のリーダーに関しても、これまでは、人数も限られており、比較的厳しく・強く・パワフルな、ある意味男性のリーダー像に近い人が多かったかもしれません。

一方、私の個人的な経験では、海外企業のトップリーダーは、よりオープンで人間味溢れた人が多い気がします。特に、米国駐在中に多くのトップリーダーの方達とお会いして、違いを痛感しました。その経験もあって、私自身は、従来の日本型のリーダーのイメージに染まらないように意識しつづけてきました。

今後、女性の管理職比率を上げていくためには、リーダー像をもっと柔軟に捉えて、より多くの女性が自分のリーダー像を描きやすくすることが必要だと常々感じています。

 

しなやかに活躍する女性リーダーを増やしていくためには、従来型の日本企業のおじさんタイプの管理職や経営層ではなく、これからの時代に求められる、よりオープンで柔軟なリーダー像をイメージし、自らの将来イメージとして描いていけるようにサポートすることが重要だと思っています。

 

kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)

関連記事